世界のファッションシーンを長きに渡り牽引するYohji Yamamoto。同ブランドとWHITE’S Bootsのコラボレーションによって生まれたブーツが、この度リリースされることになった。Yohji Yamamotoが展開する各ブランド全体を統括する久保正氏に、WHITE’S Bootsとの関係、これからの展望などを聞いた。

TADASHI KUBO

大阪府出身、1961年生まれ。

近畿大学商経学部卒業後、文化服装学院デザイン専攻科に進学。

1987年ヨウジヤマモト社に入社し、

現在、同社でクリエイティブの統括を行う。

—はじめに、WHITE’S Bootsとのコラボレーションに至った経緯をお聞かせ下さい。

お相手に声を掛けさせて頂く上での、我々なりの基準がまずあります。15年近くお仕事をさせて頂いているadidasを例として挙げると、私の世代(久保さんは現在56歳)並びにその後の人たちにとってもアイコニックな存在であり続けている。つまり、すでに自ら確立した市場をもっていて、Yohji Yamamotoに匹敵する歴としたステータスをもっている点が基準になるのです。WHITE’S Bootsはおよそ150年の歴史をもつ、紛れもないキング・オブ・ブーツ。そのことについて私がわざわざ言う必要はなく、ファッション、ブーツに精通している方、皆が知っているはずです。WHITE’S Bootsの他にも、同等の認知度があるブランドはいくつかあります。ただ、それらはただ有名であるということに過ぎず、WHITE’S Bootsには高い特別性があった。なかなか言葉にし辛いのですが、ブーツは履くのにひと苦労が要りますよね。しかし、一旦WHITE’S Bootsを履いてしまうと脱ぎたくなくなってしまう。足と一体化、フィットする感覚が味わえた数少ないブーツのひとつだったのです。

—久保さんご自身にとっても憧れの対象だった、ということですね。

ショウに使わせて頂きたいと打診をしに行く時、断られるのではないか、と当初はかなり委縮したくらいです。一般的に靴の製造はライン上で行われ、大量生産される。しかし、WHITE’S Bootsは未だに型すら手でつくり、ひとつひとつに対する時間と手間を惜しまない。そういった姿勢は当然、憧れますよね。我々はいうまでもなく、靴屋ではない。詳しいノウハウはもっていないわけですから、ある程度のアイディア出しはするものの、フィニッシュはお相手の技術力に委ね、頼らなくてはならない。そのことを逆にいうと、我々が求めているものを実現できないところとは二度とやらない、ということにもなる。それがオートクチュール(注文服)ではなく、手づくりのプレタポルテ(高級既製服)をつくっているYohji Yamamotoにとって、守らなくてはならないことなのです。WHITE’S Bootsはその条件を見事にクリアしてくれた。なので、これからも関係は継続していくと思います。

WHITE’S BootsとYohji Yamamotoの“共同創作”によって生まれたブーツ。
ホワイトのローカットブーツはイタリアの革を用いアメリカでつくったという、
日・伊・米を跨いだ、WHITE’S Bootsにとっても新しい試みが反映された一品。

—社会的なイメージ、物としてのクオリティ、思想的な部分でYohji Yamamotoとリンクした、と。次に今、少し触れて頂いた製造の工程についてお教え下さい。

我々が大切にしていることは信頼の次に尊重です。150年という長い時間で培われたデザイン、機能、伝統をドラスティックに変えることはできないですし、壊し過ぎてしまったらコラボレーションの意味がない。ただ、WHITE’S Bootsの既存のブーツにシグネチャーをスタンプするというのだけだと、芸がないし、全く面白くない。段々とYohji Yamamotoたらしめている要素を浸透させるために、第一作目ではバックスキン(シカ皮の表面をこすり起毛させたもの)とツルっとしたレザーのコンボで、あとは洋服との兼ね合いを考え、どこにそれぞれを使うかという提案で留めました。

ある意味、コラボレーションという安易な言葉は誤りで、共同創作と表現した方が正しいかもしれません。WHITE’S Bootsは、ワーカーの足を保護するという用途から歴史がスタートしている。そして、それに徹してこられた。一方で我々は個性を楽しんでもらうための提案をし続けている。目的がそもそも異なるわけですが、すべてを無理やり合わせるつもりはない。少しずつ近づけていければ良い。それがYohji Yamamoto流のアヴァンギャルドという言葉の捉え方です。袴とブーツを合わせ、先見の明を見た坂本龍馬のように、ずっと先ではなく、一歩先に出る。今回のブーツにはそれがよく現れていると思います。はじめからいたずらなデザインにすることが、Yohji Yamamotoはそもそもないんですよ。

—今日お履きのブーツは次回のプロトタイプだそうですが、特徴をご説明頂けますか?

一番の特徴は、やはりレース部分につけられているファスナーですね。これはおそらく、履き脱ぎのしやすさを上げるためにWHITE’S Bootsが開発した、あくまで機能のためのパーツだと思うのですが、これが我々のクリエイションに大きな影響を与えました。実は2018年の春夏コレクションで展開したいくつかの洋服に、このファスナーが採用されているんですよ。洋服のデザイナーの初見の心理では、例えばライダースの袖口のファスナーに応用できるのでは、と発想を転換できるのです。そうやって、クリエイションは徐々に進化をしていくのだと思いますし、山本耀司自身がこれまでつくってきたものは、そういった視点によって生み出され、デザイナーたちに受け継がれています。

—ブーツだけに留まらせるのではなく役目を拡張させてしまう。“共同創作”が生む、素晴らしい形ですね。キャップの左側に入っているステッチも良いアクセントになっています。

これは元々、デザインを提案する際に私がPhotoshopで引いただけの単なる線だったのですが、WHITE’S Bootsはハンドステッチで再現してきた。ごくわずかなアクセントだけれども、あるのとないのでは大きく雰囲気が変わってくる。しかも、機能という点では無意味だから、今までWHITE’S Bootsにはなかった試みでもある。見せて頂いた時、よくぞやってくれた、と大感激を覚えましたね。

—最後に、今後の展望があればお教え下さい。

最終的には、あえてアイリッシュリネンなどのしっかりとした麻素材でブーツをつくってみたいと考えています。WHITE’S Bootsといったらレザー。異素材を用いる怖さはあるけれども、互いの関係を完璧に構築することができて、破れたとしても、それがWHITE’S BootsとYohji Yamamotoによる共同創作が生み出したブーツの味なんだ、と我々が言い張れる立場になれれば、将来的に実現するかもしれない。しかし、今は一足でも多く、今あるものを色々な人に履いてもらい、存在を知ってもらい、一歩だけ先に進んだ個性を楽しんで頂きたい。それが結果的に最高の欲の実現に結びつくのだと思います。

牛革を裏使いと表使いを組み合わせている点が特徴のレースアップ・ワークブーツ。
トゥキャップのカーブ部分は、ヨウジヤマモトのオリジナルデザイン。

Yohji Yamamoto POUR HOMME

デザイナー山本耀司の世界観を最大限に服のクリエーションで表現したメンズブランドで、1984年よりパリコレクションに参加。

社会の規範に縛られることなく自由な精神を持つ「何者だかわからない」男達、ダンディでありながらどこかコミカルなユニークさが漂っている男達をコンセプトとしている。